楽久我喜帖
『刀工として』
< 清田 裕希 >
私が刀工を目指す切っ掛けになったのは、高校二年生の時に、古本屋さんで見つけた一冊の刀剣入門書でした。
幼少から図画工作が大好きだったこともあって、美術専攻のある学校(兵庫県)に入学し、美術の基礎を学びながら、将来についてはただ漠然と、何かしらの創作活動に就きたいと考えていた矢先のことでした。
その刀剣入門書に載っていた名刀写真を一目見て、神秘的かつ未知の分野である日本刀の魅力に瞬時に心を奪われ、刀工修行の道に進む決断をいたしました。
とはいえ、それまではまったく刀に無縁の生活をしていましたので、世の中に刀鍛冶がどのくらい存在しているのかなど、全然わからない状態でした。
先ず、入門書に紹介されておりました刀剣博物館の学芸員さんに、奈良県の無鑑査刀工・河内國平師を紹介していただき、高校を卒業と同時に入門、六年間の修行を経て独立いたしました。
在門中から、支部の鑑定会や名刀の展示会など機会がある毎に、刀剣の歴史や鑑定について、自分なりにコツコツ勉強してきたつもりです。
しかし、刀のことを知れば知るほどに、己の技術と見識の未熟さを感じるばかりで、果たして本当に刀が作れるのかどうか?作っていいのかどうか?などと自問自答を繰り返すことがよくあります。
名刀を見れば、地鉄の美しさや刃文の働きに惚れ惚れして、幸せな気持になると同時に、名刀を残していった刀工たちから、新しい課題を突きつけられて、『お前はどうだ!こんな刀が作れるのか?』という声が聞こえてくるように感じ、心を揺さぶられる感覚になることもあります。
ですから、今の私の日本刀との関わりが、純粋に刀剣を鑑賞して、その悦に浸るというよりも、作刀研究のための教科書や問題集といったところでしょうか。
現在は特に、末備前、中でも”与三左衛門尉祐定”を中心に作刀研究をしておりますが、理想と現実のギャップを埋めるべく試行錯誤を続けております。
また、作刀研究以外の課題といたしましては、世界に誇れる日本刀の文化を、世界中の方に理解してもらいたいという考えがあり、積極的にアピール活動をしていきたいとも考えております。
昨年結婚をしたこともあり、これからは決して自分ひとりの思いだけで歩んでいくのではなく、社会との折り合いを更によく考えながら、日本刀との関わりを持っていこうと強く決意しております。
結局のところ、古本屋さんで偶然出会った一冊の刀剣書がはからずも私の人生を導いてくれた訳ですが、伝統文化の灯を消さない為にも誠心誠意作刀技術の向上に励んで参りたいと考えています。
なお、ただ刀が作れるというだけで、それ以外のことは未熟であると自覚しておりますので、今後とも厳しくご指導、ご助言していただきますよう、宜しくお願いいたします。
