楽久我喜帖
二人の恩人
< 岡野 康広 >
私が刀剣に興味を持ち始めたのが中学三年生の時でした
近所に無類の刀好きなおじさんが居て、私も刀を見せてほしさに遊びに行ったりしていました。
行くと必ず刀を見せてくれては話を聞かせてくれました。
ある時、ジョリジョリに錆びた刀を見せてくれて『これだけ錆びていても研げばこんなに光って美しくなるんやぞ~』と言って、色々と教えてくれました。
近々これを研ぎに行くから研師さんへ一緒に連れて行ってやると言ってくれました。
私は嬉しく楽しみにしていました。
それから数ヶ月経って私は高校一年生になった春、その刀を研ぎに行くことになり、連れて行ってもらいました。
大阪市内に住むIさんと言う研師さんでした。
その研師さんも親切に刀の見方や取り扱い方など教えてくれました。
それから数ヶ月が経ち、研師さんからの研ぎ上がったという連絡を受け、早速二人で受け取りに行きました。
或る程度の期待はあったものの、改めて研師さんから手渡され見せられた時のあの感動は今でも忘れる事が出来ません。
あの朽ちかけた刀がこんなに輝きを取り戻せるのかと驚き、そして何よりも日本刀とは他の刃物とは違い、いかに素晴らしいかを知らされました。
それに魅せられた私は研師になりたいと言う気持が湧いてきた訳です。
そして高校卒業と同時にそのおじいさんの世話により、I師匠の元で隣日に修行することになりました。勤めながら修行は人一倍の努力と苦労がありました。
そして年期が明けたのが三十二歳でした。何と言いましても私が刀に出会えたのも既に故人となっているこの二人によって教えられたためであり、今も常に感謝しています。
今迄に色々な刀を研いで来ましたが、その経験から申し上げますと古刀は地刃共にあまり硬くはないですが、新刀・新々刀は硬いです。
特に、新々刀の刃が硬いように思います。
研師仲間ではよく『南紀重国は古刀のように砥石当たりも良く、手を加えれば加えるだけ応えてくれる刀』だと言われていますが、本当にそう思います。
また、研ぎ栄えのする刀と言えば、やはり肥前刀が一番ではないかと思います。
姿も良く、肌も綺麗に出る。兎に角スッキリと仕上がる刀だと思います。
これは研ぐ人によって違うかも知れませんが、私はそう思います。
私の思い出の一振りと言えば、修行時代に初めて最初から仕上げまで一人で研ぎ上げた粟田口近江守忠綱の脇差です。押型を添えてご紹介します。
